20130722 風立ちぬ

「風立ちぬ」を観た。

今作はこれまでの宮崎作品と違って大人向けということで,あまり期待せずに行ったのだが,最終的にはボロ泣きで,帰る時には目が腫れてとっても恥ずかしい事態になってしまった。とはいえ「すばらしい作品だったよ!」と言いたくてたまらない映画でもない。なのだが,心に訴えかけるものは確実にある不思議な作品だった。

ということで,まだよく頭が整理できていないのだが,なぜ泣いたのか自分なりに考えてみた(ネタバレあり)。





まずあらすじを雑に書くとこんな感じである。

主人公は飛行機の設計者になるのが夢。あまり感情の抑揚が見えないタイプ。
 →勉強して今の東大(本郷なので推定)に行く。
  →上京する途中に地震。ヒロインと出会う。
    →卒業。不況だが就職し飛行機の設計者になる。海外にも行く。
      →最初の大仕事で失敗する。傷心で軽井沢に行く。
        →軽井沢でヒロインと再会する。付き合うことになる。でもヒロインは結核。
          →一人で会社に戻る。ヒロインは田舎の病院で治療するが抜け出す。結婚。
            →設計した飛行機(零戦)が無事飛ぶ。
              →飛んでる間にヒロインは田舎の病院に帰る。
                 →終戦。ヒロイン死ぬ。

うーむ,あえて雑に書いたつもりではあるが,あらすじだけだと相当ひどいことになってしまう。というより,おそらくあらすじは現在公開されているCMや前情報で完全に読めてしまうと思われる。全体的に抑揚がなく,また,病気で薄幸のヒロインという設定もありきたりである。しかし,当然この辺の流れは見る前から自分も想像がついていたわけで,それでも泣けるのだから,それがこの作品のすごさということにもなってしまう。

まず監督がなにを言いたいのかというと,キャッチフレーズの「生きねば(元訳の生きめやも,と本来の意味はちがうんだろうけど)」につきるのだろう。主人公は飛行機の設計はしたいが,それは戦闘機・人殺しの道具として使われることを意味している。主人公は戦争自体は嫌っていると思われるが,特にこの点について葛藤するシーンは見られない。これに対して非人間的だとか,戦争の悲惨さを描いていないという批判もあると思われるが,それはこの作品で言いたいことがそこではないからだろう。というのも,この作品には戦争以外にも,地震,不況,病気といった個人ではいかんともし難い状況が出てくるからである。いかんともし難いものに対して,「それでも生きていくしかない(生きねば)」という人間の宿命を強く体現しているのが主人公でありヒロインである。

実際大人であれば,戦争ではなくても,自分の夢や仕事が個人ではいかんともし難い力でもみけされてしまう状況にはいくつも遭遇しているはずである。それでも「生きねば」とは思わないまでも「前を向いて行きていくしかない」のが人間である。そんな人間の小ささと力強さが,この作品では自分勝手ではあるが美しく描かれている。

美しくといっても主人公は結婚したヒロインが病気で寝ていても仕事にあけくれている。極端なエピソードを出すと深夜に病気のヒロインの横でタバコを吸いながら仕事をする。ヒロインの方はヒロインの方で結核なのにキスをせがむ。ある意味エゴの塊のような登場人物である。しかし,互いを理解しながら,仕事や恋にひたむきになる主人公達の姿はとても力強い。全力で生きるというのはそういうことなんだろう。おそらく自分には出来ないがそれゆえにぐっとくる。

テーマとしては,もののけ姫でも「生きろ」と言っているし,これまでの作品を通じて監督が言いたいことと変わらないのかもしれない。しかし,ファンタジー色を排除した今作の設定が,震災後の現在とうまく合っていて,「生きねば」が重く響くのだろう。あとは,それを美しく描いているということで,結局は映像や台詞の力も大きいということになる。心配された主人公の声(庵野監督)だが,最初はその棒読みに衝撃を受けるものの,最終的にはこういう主人公なんだと思うと結構聴ける。内容までは書かないが,あまり感情がないようにいい台詞を吐くのでそれが逆にぐっとくるし,最後の最後で一番感情を出すので効果が大きい(多分最初よりうまくなったんだろうけど)。映像の方は,正直中盤で,「これ実写でいいんじゃないか?」とも思ったが,結婚式のシーンに至り,おそらくジブリ絵でないとここまで感動はしないんだろうなという平凡な結論に至る。整理してみるとなんだかとっても残念な結果である。

ちなみに泣く可能性のあるシーンは最後の方に凝縮されていると思うが,個人的には主人公が傷心で軽井沢に行ったところからダメだった。基本仕事人間なので,大きな仕事でうまくいかなかった主人公によくわからない感情移入をしてしまったようである。

最後に,冒頭にも書いたが,戦争がテーマと思われているため,見る前からアレルギー反応を示す感想が見られるが,それは完全に的外れである。そもそも,作品中で零戦,大戦といった言葉は出てこない(予告編ではあるが)し,極端な話,作品中では日本が舞台で何年くらいの話かということも言っていない。当然大正から昭和にかけての日本が舞台なのだが,別にそんな設定がなくても普遍的なテーマなので問題がないということなのではないだろうか。子供は間違いなくつまらないだろうが,大人は後悔しないと思うので,是非映画館で見て頂きたいと思う。

by beam-column-joint | 2013-07-22 21:11 | movie  

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